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NOVEL
ハル 「うわぁ……どうしたんですか、これ?」
とある昼下がり、ラブリーオーシャンを訪れたハルは、店内の様子に目を丸くした。
テーブルは倒され、椅子はあちこちに転がり、キッチンでは食器や調味料が床にぶち撒けられている。
大門 「僕が来たときには、もう、こうなってたんだ」
キッチンから顔を出す大門。その腕には、ねこまるがすっぽりと収まっている。
大門 「窓は割れてるし、椅子は壊れてるし……おまけに店番をしていたさおりんとは連絡がつかないし」
ハル 「有栖川さんが!? ……ダイナーもこんなに荒らされて……もしかして、強盗に誘拐でもされたんじゃ──」
三田 「いやいや、さすがにそれはねぇだろ。アイツ、この間もさらわれたばっかだぜ? 立て続けに二度も誘拐されるなんて──ん? なんだこの紙?」
カウンターに置かれた紙を、手にとって広げる三田。
三田 「『有栖川さおりは預かった』……だと? お、ご丁寧に地図までついてやがる」
大門 「地図が示しているのは……ミナトシティの海沿いの方だね」
タイガ 「おいおい……それじゃあホントに有栖川は誘拐されちまったってことか? この短期間に二度もさらわれるなんて聞いたことねぇぞ。ったく、しっかりしろよな〜」
大門 「まあまあ。ああ見えて、案外抜けてるのがさおりんのいいところでもあるし」
ハル 「そう、それがまた魅力的で……って、呑気に話してる場合じゃないですよ! その地図の場所に有栖川さんがいるんですよね? 早く助けに行かないと!」
タイガ 「そう慌てんなって。有栖川なら心配いらねぇよ。アイツの強さ、お前も知ってるだろ?」
大門 「そうそう。それより、まずはダイナーを掃除しないと」
三田 「やれやれ、盛大に散らかしてくれたもんだぜ──」
バン!
突然の音に三田、タイガ、大門が振り返ると、テーブルに両手を叩きつけたハルの姿があった。
ハル 「万が一ってこともありますから! 今すぐ助けに行きましょう!!」
ミナトシティ。海沿いの廃倉庫。
倉庫の中、手足を縛られた有栖川は、ガラの悪い男たちに取り囲まれていた。
有栖川 「こんなことして、何のつもり?」
不良A 「ミナトトライブ! お前らイキってて、ムカつくんだよ!」
不良B 「チヨダに勝てたのも、どうせ他のトライブに助けてもらったおかげだろ?」
不良C 「ちげぇねぇ! 女の言うことなんか聞いてる、腰抜けトライブが!」
不良たちの口ぶりに、眉をひそめる有栖川。
有栖川 「“女の言うこと”って……まあいいわ。それで、何が目的なのよ」
不良D 「わっかんねぇかなぁ!? リーダーさんよぉ!」
不良E 「“最強”のミナトトライブをぶっ潰しゃあ、俺たちの時代だ!」
不良F 「お前はミナトの奴らをおびき寄せるエサってワケ!」
“最強のミナトを倒して名を上げる”──有栖川はアダチトライブとの一件を思い出す。
かつて、アダチトライブの男たちも同じ言葉を吐き、有栖川を人質にとってミナトトライブをおびき出したことがある。
彼らとのXBでは、迷路のように入り組んだアダチダンジョンや、バイクスパイクに翻弄され、ミナトトライブは苦戦を強いられた。
しかし、目の前の不良たちはヘラヘラ笑うばかりで、ミナトを打倒する策があるようには思えない。
有栖川 「……もしかして、それで終わり? まったく、ノープランもいいところね」
不良G 「あ? お前、今なんて──」
有栖川 「ウチを襲撃しようなんて気合いの入った奴らだと思ったから、念の為おとなしくついてきたっていうのに……」
不良H 「おい、何をグチグチ喋ってやがる」
有栖川 「……あのねぇ。あんたたち、所詮はアダチの二番煎じなんだから、ちゃんと考えてから行動に移しなさいよ。私をエサにみんなをおびき出したところで、タイガや愛海に殴り合いで勝てるの? 千住のバカみたいに信念はないワケ? やってることすごくダサい自覚ある? はぁ……これじゃあ、たださらわれた私がバカみたいじゃない」
不良I 「るっせぇな! 二番煎じってなんだよ! それはそっちの都合だろうが!」
不良J 「お前、自分の置かれた状況わかってんのかよ!」
不良K 「あんまり騒ぐようなら、その身に思い知らせてやるぜ! ゲヘヘ……」
有栖川 「……自分の身の心配をした方がいいんじゃない?」
不良L 「何言ってやがる──」
その瞬間。
ドーンッ! と大砲のような衝撃が、廃倉庫に響き渡った。
不良A 「な、なんだぁ!?」
舞い上がる砂埃の向こうには四つの影。
タイガ 「待たせたなぁ!」
大門 「ダイナーをめちゃくちゃにして、さおりんをさらったのは君たち〜?」
三田 「あの鳳王次郎を倒した、最強のミナトトライブ様に楯突くとはな。いい度胸してるじゃねぇか」
ハル 「ケホケホ……」
トレーラーで乗りつけたミナトトライブ。
倉庫内に並んだコンテナをもなぎ倒し、あっという間に不良たちの目の前に現れた。
不良B 「コイツら、めちゃくちゃしやがる……」
三田 「めちゃくちゃなのはどっちだ。留守の間にラブリーオーシャンを荒らしやがって」
不良C 「ヘッ、テメェらが不用心なだけだろ? 文句があるなら受けて立つぜ」
不良D 「かかってこいや、女の尻に敷かれる腰抜け共が──」
ズドン!
不良たちが再びの衝撃音の方に目を向けると、タイガが傍らのコンテナを殴っていた。
その拳どころか、手首までコンテナにめり込んでいる。
タイガ 「うるせぇなあ、ピーチクパーチク。ちったぁ静かにしろよ」
不良E 「なんて馬鹿力……」
不良F 「くっ……! ちょ、調子に乗んなよ! こっちには人質が──って、いねぇ!?」
不良たちの目線の先には、有栖川を縛っていたはずの縄だけが転がっていた。
不良G 「あの女……まさか逃げやがったのか!?」
有栖川 「逃げるだなんて、人聞きが悪いわね」
不良たちが顔を上げると、コンテナの上に仁王立ちする有栖川の姿があった。
その手には、彼女が愛用するエアガンがしっかりと握られている。
有栖川 「あんたたち、揃いも揃って、話が長い上に、中身がなくて、ウザいのよ!」
ダダダダダダッ!
言うが早いか、有栖川は派手に銃撃をお見舞いしていく。
不良たちは口々に何か言おうとするが、お構いなしに降り注ぐBB弾の雨。
三田 「おいおい、いつもより多めに撃っております、ってか?」
タイガ 「だとしても……サービスしすぎだろ」
ハル 「すみません……有栖川さんのエアガン、弾をフルに装填して持ってきちゃいました」
大門 「ハハ……。BB弾とはいえ、これじゃあ相手が可哀想だね」
三田 「でも、カズキがいない分、まだちったぁマシなんじゃねぇか?」
タイガ 「あぁ、アイツ、性格悪ぃし、加減ってものを知らないからなぁ。アイツがいるときにミナトに手を出してきやがったら……倉庫ごと大爆発、とか?」
三田 「そんなもんで済むかよ。シティ中に名前と顔と恥ずかしい写真張り出すまでやるにちげぇねぇ」
ハル 「いくらカズキさんでもそんなことは……やりかねないですね」
有栖川 「はー、スッキリした。ほんと、ふざけたことしてくれるわ」
不良I 「クソッ……こんなことになるなんて……」
タイガ 「で、どう落とし前つけるんだ?」
不良J 「落とし前?」
三田 「ウチのリーダーさらっておいて、降参するから許してくれってのはちっとばかし、甘いんじゃねぇ?」
凄みながら詰め寄るミナトトライブ。
縮み上がる不良たちの助け舟となったのはハルの声だった。
ハル 「あの──正々堂々、XBで決着をつける、っていうのはどうですか?」
すこし離れた所で、何かを拾い上げるハル。
それはXB用のバット。
あたりを見れば、いくつかのXBギアが無造作に転がっていた。
どれもボロではあるが、使い込まれてはいる。
古びたバットを片手に、ハルは不良たちに向き直った。
ハル 「君たちも──やるんでしょ、エクストリームベースボール」
深夜のミナトシティ。
街中のフィールドに場所を移して、改めて対峙するミナトトライブと不良たち。
不良A 「へっ、かえって都合がいいぜ。XBなら負けやしねぇ!」
有栖川 「ハイハイ。せいぜい楽しませてよね」
先攻の不良たち。
やはりXBの心得があるらしく、三田の投げた球を見事に打ち返す。
不良B 「よし、早速出塁だ……!」
タイガ 「そう甘くは行かないぜ」
一塁・芝寺へと走り出した不良の前に立ちはだかるタイガ。
その手には、既にボールが握られている。
不良B 「は、速ぇ!?」
タイガ 「そんなんでオレたちに勝とうなんて、100年はえぇんだよ!」
拳の一撃で、タッチアウト。
その後もアウトを重ねると、あっという間に攻守が交替する。
ミナトトライブの一番打者・ハルは、険しい目でピッチャーを睨む。
ハル 「……有栖川さんをさらって、怖い目にあわせて……許さない……!」
ハルがバットのスイッチを入れると、虹色に輝くビームが展開し、ビームバットが本来の姿を現す。
ハル 「……見せてあげるよ。ミナトタワーのてっぺん、ぶちのめすところ」
不良A 「うるせぇ! 見た目ばっかカッコつけやがって! おらぁぁ!」
不良が全力で投じたボールを、ハルは真芯で捉えて打ち返す。
そして──宣言通りにミナトタワーの先端部を貫通する打球。
その圧倒的な光景を、不良たちは各々の守備位置で呆然と見つめていた。
不良C 「ミ、ミナトタワーが……おい! 誰だよ、ミナトトライブは腰抜けだなんて言った奴! アイツら、めちゃくちゃ強いじゃねぇか!!」
不良D 「ま、ま、マジでやべぇ奴らにケンカ売っちまった……おい、もうXBなんてやってられっか! とっとと逃げるぞ!」
不良A 「お、おい、お前ら……!」
有栖川 「待ちなさい!!!!!」
リーダー格の制止にも応じず、散り散りに逃げ出そうとする不良たち。
そのとき、フィールド中に有栖川の怒声が響き渡る。
有栖川 「あんたたち、本当にそれでいいの? 狭い倉庫でイキって、都合が悪くなったら逃げ出して。私たちを倒して、自分たちの時代を築くんじゃなかったの?」
不良D 「…………」
有栖川 「どんなに勝ち目がなさそうでも、一度決めたことは最後までやりきりなさいよ!」
不良C 「るせぇな……なんだよ女のくせに……」
有栖川 「さっきから、女、女って。なによ、女だからXBをしちゃいけないってワケ? そういうくだらないことに囚われてるから、あんたたちは負け犬なのよ。まだ勝負は始まったばかり。立ち向かわなきゃ、勝てるものも勝てないわ。それとも、一生負け犬でいるつもり?」
不良D 「るっせぇなぁ! お前は俺の母親か! ……言いたい放題言ってくれやがって。そこまで言うならやってやる! ゲーム続行だ!」
売り言葉に買い言葉。啖呵を切った不良に、有栖川はいたずらっぽく笑いかける。
有栖川 「そうこなくっちゃ。まだまだXBは始まったばかり。楽しみましょう」
不良C 「……おう!」
不良A 「チクショウ! 覚えとけよ!」
ハル 「いつでも待ってますよ!」
タイガ 「おう、XBはどこにも行きやしねぇからな」
三田 「いつでも待ってる……XBはどこにも行かない……か」
散り散りに去っていく不良たちを見送るハルとタイガ。
そんなふたりの背中を、三田は神妙な面持ちで見つめる。
タイガ 「さてと、帰るか……って、みっちゃん、なんだよその顔」
三田 「え? ああ、いや……なんか、ハルもタイガも、神谷みたいなこと言うようになったなって思ってさ」
タイガ 「は?」
ハル 「え?」
三田 「とぼけんなよ! 意識してんだろ? それとも何か? 受け売りか?」
タイガ 「んなことねぇって。気のせいだろ?」
大門 「確かに、XBのプレーも似てきたよね。なんだか今日は、久々に瞬くんとやってるみたいな気がしたよ」
有栖川 「三田も愛海も、甘すぎ。神谷にはまだまだ遠く及ばないわ。……でも、そうね。ふたり共ちょっとだけカッコよかった、かな」
言いながら、有栖川はフッと顔を背ける。
らしくない様子に、たじろぐハル。
ハル 「た、タイガくん、今のって……」
タイガ 「──ってことはよ! 神谷の魂がオレたちの中に受け継がれてるってことだろ? そんなオレたちがもっともっと練習して、もっともっと上手くなれば、それって、神谷と一緒にプレーしてるってことになるんじゃねぇか!?」
興奮して、まくしたてるタイガ。
言っている内容は荒唐無稽にも聞こえるけれど……
自分たちが上手くなることで、神谷のXBが生き続ける。
それは、ハルの心にもスッと響いた。
ハル 「……そうだね、タイガくん」
有栖川 「さあ、帰ったらダイナーの掃除よ」
大門 「ねこまる、大人しくしてるかなぁ」
三田 「さっさと乗り込め。出発するぞ」
XBはどこにも行きはしない。
ミナトトライブは、終わらせない。
守り抜いてきた熱い思いと誇りを胸に、ミナトトライブは走り続ける。